平成二十三年
妙法 清澄院日大信士位
六月二日
俗名 田中大偉
享年十六歳
24日・・・AM
事務所のトイレに向かった・・・・。
何やら廊下で動いている物体?
近づくと、蝉だった。
しかもひっくり返っていて、起き上がる事ができない。
小学生の頃は、素手でつかむ事ができたが、さすがに今はできない。
触ると、バタバタ暴れるからつかむのを拒んだ。
トイレの入口付近だったので、知らないで踏んでしまうかも知れないと思い、
群馬出身の後輩を連れてきて、捕まえて逃がしてくれない?
その子も今では触っていないので・・・恐る恐る私がつかんだ。
だいぶ弱っている。
どうも、その前の朝から迷いこんでエレベータの天井に張り付いていたみたい。
トイレの窓から逃がそうとしたが・・・
飛ぶ気配がない。
このままでは、逃がしても下に落ちてしまうだけなので、玄関先の花壇に連れていった。
二階から階段で降りながら、大丈夫だよ・・・大丈夫だよって
わかるはずもないのに、声をかけながら花壇に連れてきて、指先にしっかり掴まっているところを離そうとしても中々離れない。
むしろ、ギューっとつかみ返す。
離れたくないよ~っ。
一緒にいてよ~っ。って感じで段々と強くなる。
大丈夫だよ。
大丈夫だよ・・・と言いながら指から離したが、人差し指には離れたくない蝉の足が食い込み、赤くなっていた。
あれから、蝉を確認していないがどうしているのか?
土の中には何年もいて、ようやく出てくればたったの1週間。
精一杯、夏に鳴いて終わる。
大偉が小さい頃、もらったカブトムシが亡くなって、
庭の端にお墓を作って土に返した。
大偉は、精一杯生きたのだろうか?
やり残した事は山程あるに違いない。
たった16年間だけで、精一杯生きたなんて、そんなのあり得ない。
みるるも、大偉と、もっと、もっと一緒にいたかった。
和室で倒れていた、みるるを抱きかかえても・・・
頬を舐めたり・・・
病院のベットで横になっている大偉を揺すっても、叩いても・・・
手を握り返してくる事はなかった。
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